『小さい頃は、神様がいて』第6話レビュー〜静かに心を締めつける、家族の“本当の気持ち”が滲み出る回

ドラマ
『小さい頃は、神様がいて』10月期木10ドラマ【フジテレビ公式】Xより引用

<あらすじ>

「たそがれステイツ」の三階に住む小倉ゆず(近藤華)は、二階に住む樋口奈央(小野花梨)と高村志保(石井杏奈)の映画を撮っていた。子どもの頃から他人が苦手だった志保と、笑顔でいることで自分を守っていた奈央。二人は高校生の時に付き合うようになり、卒業後に一緒に上京して暮らし始めた。その話を笑顔で聞いていたゆずだが、二人の夢だったキッチンカーを買うのは難しいと知り、心を痛める。

小倉渉(北村有起哉)は順(小瀧望)とおでん屋へ。離婚については黙ったまま、楽しそうにおでんを食べる渉。一方、あん(仲間由紀恵)は順が幼い頃から離婚の約束を知っていたと確信し、やるせない気持ちになる。渉と順、あんとゆずはそれぞれの場所で、昔ゆずの学校行事で芝居を観に行ったことを思い出す。あるシーンで、客席の中で渉だけが号泣していた。それに気づいた他の観客が笑い出す中、あんは「何がおかしいんですか!」と怒ったのだった。当時のことを思い出した順とゆずは、それぞれの想いを明かす。

一階に住む永島慎一(草刈正雄)とさとこ(阿川佐和子)は、凛(和智柚葉)と真(山本弓月)の育児に疲れてソファで眠ってしまう。目を覚ました二人は部屋を片付ける気力もなく、散らかった部屋で酒を酌み交わす。そんな中、順はおでんパーティーを提案し、永島家に集まることに。和気あいあいと楽しんでいた一同だったが…。

第6話は、奈央と志保——この2人のバックボーンを丁寧に描くところから始まる。
ゆずの映画づくりのインタビュー取材がきっかけとなり、2人の回想が映し出されるのだが……この映像の美しさが、とにかく秀逸。
スローの使い方が絶妙で、同じようなサイズのショットでもアングルを巧みに変え、温度の違う“思い出”が次々と立ち上がる。思わず見入ってしまう。

■ ゆずとあん、そして順と渉——カットバックが織りなす静かな叙情

ゆずは、あんに「ハッピーエンドじゃないと嫌だ」と涙ながらに言う。
一方で、順と渉は屋台のおでん屋で肩を並べて酒を飲む。
この父と息子、母と娘の2組のカットバックが、本当にうまい。

父と母の優しさが揺らぎなく存在し、そして子どもが心の底から“両親が好き”なのが伝わってくる。
たった数カットの往復なのに、家族の温度がひとつに収束していく。このシーンはまさに岡田脚本の妙だ。

「やっぱり仲が良いじゃん」「いい家族じゃん」
そう思わせる温かさがある。
これはハッピーエンドへの布石なのか、それとも——バッドエンドを強調するための静かな前振りなのか。
そんな不穏な期待すら抱かせる。

■ 渉とあんのプロポーズ、そして“寝室の距離”

渉とあんのプロポーズ回想。
友人の結婚式、ブーケトスでブーケを取ったのは渉。そのブーケを、隣にいたあんへ静かに差し出す。
シンプルなのに、胸が温かくなるシーンだ。

そして現在に戻ると、寝室での2人の描写が微妙に変化している。
離婚は決まっているのに、互いの表情には何か抱えている思いが滲む。

あんが気がかりなのは、やはり順のこと。
「自分は正しかったのか?」「順に無理をさせてしまったのでは?」
だから“天使のように笑う順”は、あんが作り出したものなのではないか——そんな罪悪感に似た気持ちが、胸を締めつける。

これは大きい子どもを持つ親なら、誰もが一度は感じたことがあるのではないだろうか。
“自分の言葉や行動が、その子の性格や人生に影響を与えてしまったのではないか”……という恐れ。
痛いほどよくわかる。

■ 慎一とさとこ夫婦のリアルさ

慎一とさとこ夫婦。
孫との生活は、やはり大変そうだ。
めちゃ便利なキッズ用品の紹介や、渉と会長の“安定のやりとり”など、生活感も漂っていて微笑ましい。

■ おでんパーティーに映る“家族の座り位置の変化”

そして恒例のおでんパーティー。
よく見ると座り位置がドラマ当初と違う。
あんと渉はどんどん距離を取り、孫が来てからはさとこが孫のそばに寄る。
セリフではなく“画”だけで語る変化がとてもわかりやすく、胸がくっとなる。

※そして、なんで子どもって、ちくわぶばかり食べるんだろう。なぜか男の子は好きなんだよね……と妙に納得。

■ このドラマが“ほっとする”理由

この作品が優しいのは、見せ場のあとに必ず“後片付けのシーン”が入るからだと思う。
大きな感情を揺らした後に、意図的に余韻を残す。普通カットですよね。こういう余韻があるから大人がきちんと心の準備ができる。

そして生活の匂いがして、心が落ち着く。

■ 「あんの不安」をめぐる優しい会話

あんの仕草がおかしいと気づいた慎一が、「話してみれば?」と優しく背中を押す。
そこから、あんの不安を渉がすべて言い当てる。
「絶対間違ってるでしょ」と思いきや……ビンゴ。
この瞬間、胸がつん、として少し泣けた。

順は、知っていたののではないか?
“父さんと母さんは、子どもが20歳になったら離婚する”という約束を。あの会話を聞いていたのではないか?

もしそうだとしたら、母のあんは果たして自分は正しかったのか?順に無理させてしまったのではないか?だから無理に笑顔で天使に、、、
これ、大きい子供をお持ちの方は共感する部分あるのではないだろうか。自分がこう言ったから、こうさせたから性格や人生を変えてしまったのではないか?一度は思ったことがあるのではないか。

——やっぱり順は天使だった。
あんが抱えていた心配は、結局すべて杞憂に終わった。

そして、親子4人で離婚までのスマホカウントダウンをしている姿が、妙にあたたかくて切ない。

■ 第6話を見終えて

やっぱり、いいドラマだ。
じわじわくる。
もっと多くの人にこの良さが伝わればいいのに、とつくづく思う。

脚本もお芝居も、回を重ねるごとに右肩上がり。
特別な事件が起きるわけではないのに、心の奥が静かに震える。
そんな成熟したドラマだと感じる。

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