家は“城”であり、“牢獄”でもある。岡田惠和脚本が突きつける“夫婦の自由”とは
第3話は、永島家のリビングに三世帯が集う重たい空気のシーンから。
小倉あん(仲間由紀恵)が離婚の理由を改めて打ち明ける。「渉(北村有起哉)に問題があるんじゃない。ただ、“母親ではない自分”を取り戻したいの」——その言葉に、静まり返る部屋。渉は何も答えず、長い沈黙だけが流れる。
先週から続くシーンだが、結構、渉の落ち込みが凄い。そうかこのドラマは1話で切らないで繋がっていく構成なんですね。あとで一気見する時に、めちゃいいかもしれません。
■「家族を選ばなかった自分は罪が深い」
3世帯の食事が終わり、男性チームと女性チームに分かれて寝ることになる。
男性チームのの渉&慎一の部屋。渉がつぶやく。「家を顧みないってことは罪なのか?」正直すぎる感想。罪の定義とは違うのです。そもそも罪悪感を感じたことがない渉は何も考えずに目の前にいる家族の笑顔のみを見て、興味を持っていなかったのではないか?
それに対して慎一(草刈正雄)は、「私は仕事が楽しくて仕方なかった。家族を選ばなかった自分は罪が深い」と答える。当初から罪悪感はあったが、仕事を選んだ慎一。しかも楽しくて仕方なかったという。実はこっちの方が悪質な気がするが。
このセリフのやりとり、既婚者、特に40代以上の男性にはグサッとくるはず。
“家族を守る”とは何か、“働く父親像”一昔前とは違うんです。と、静かに問う時間だった。
■「家は男にとっては城、女性にとって牢獄」
同性カップルの志保と奈央の部屋に泊まるあん、さとこ(阿川佐和子)。
「泣く男が好き」と言うあん。弱さを見せてくれる男性に惹かれる——その言葉が妙にリアル。
一方で、慎一が語る「家は男にとっては城、女性にとって牢獄」というセリフも秀逸。
すべての夫婦に当てはまるわけではないが、どこか身に覚えがある人も多いのでは。
正面から“夫婦の本音”に向き合うこのドラマは、観る者の心をざわつかせる。
※あまりに自分に近いテーマのドラマは、夫婦で観るのが怖い(昭和生まれの男性意見です)たまにはこういう話題を正面から話すことも大事なんだと思わせてくれる。が、そんな勇気はとてもじゃないが持てないと正直に思う。
※「親は私に興味がない」このセリフも刺さりました。決して愛していないわけではない。でも子供に対して、全てを投げ出しているのか?と問われれば疑問になる時もあった。自分を優先していた時があったと思う。思い返すと、それがあんの言う“自由”に反映されている。子供が20歳になったら、もういいよね。
■「愛してるから離婚する」
後半は一転して、温かく、そして少し可笑しいトーンに。
ラジオ体操の回想シーンを挟みながら、渉がついに離婚を受け入れる。
「愛してるから離婚する」「離婚までの53日、仲良くしてください」と泣きながら言う姿は、切なくもどこか笑えて泣ける名場面。
そして娘・ゆず(近藤華)の表情も素晴らしく、岡田脚本らしい“優しい言葉”が全編を包む。『最後から〜』を見てても思いましたが、言葉の一つ一つが丁寧。
■昭和の価値観と現代の愛
長男・順とあんのランチシーンでは、結婚の是非を語り合いながら、昭和の価値観とのギャップを若い子供がするところが印象的でした。
ユーミンの「守ってあげたい」が、奈央と志保カップルのカラオケで流れるシーンも心に残る。
この曲が持つ“包み込む愛”のメッセージが、彼女たちの関係にぴったり。これって他の2組にも通ずるものがあるのか?それはドラマを見終わった時に分かる。そんな気がします。
■そして最後に…静かな事件の予感
エンディングでは、慎一とさとこの夫婦に“何か”が起きる。
ほのぼのムードから一転、次回への不穏な予感。
全10話構成の本作。脚本のセオリーどおり、折り返しの第4〜5話で物語が大きく動き出しそう。
「小さい頃は、神様がいて」——そのタイトルが示す“優しさと残酷さ”が、いよいよ本格的に姿を現す。
■まとめ
今週は落ち着いたトーンの編集に変わり、とても見やすい。あの“ザラついた映像”の先週回とは別作品のよう。そうか、ギャップというか不安な気持と混乱を作ってたんですね。演出の酒井麻衣さんは「美しい彼」シリーズを撮っている監督、美しい映像とのギャップが何を表現しているか、3話にして見えてきた気もしました。映像と一緒でモヤがかかったままですけど。全編通して光が柔らかい。ともすれば、ボヤっとしてる映像ですが、その空気感を演出しているんでしょうね。
ゆるっとホームドラマに見えて、実は“家族の哲学”を真正面から描く良質なドラマ。
コメディとしてクスっと笑えて、夫婦ドラマとして刺さる。
岡田惠和脚本の真骨頂が詰まった第3話でした。

